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(番外)鮎川哲也氏逝去

日本の時刻表トリックの嚆矢本格推理の驍将などの呼称で多くの推理小説作家からのリスペクトを受ける作家、鮎川哲也氏の訃報が届きました。実はふうこのお気に入り作家のひとりであるということもありまして今日の読書番外として、ちょっと氏のことなどを。

まず、ふうこが氏のことを知ったのは、何故か創元推理文庫の棚が2列もある近所の本屋で読書の趣味が再燃しはじめた時のことでした。創元推理文庫で有栖川有栖の江神もの3部作を読んでかなり読書欲を刺激されたところで、有栖川有栖という作家を見いだしたのが鮎川哲也だという話を聞いて創元推理文庫『五つの時計』を手に取ったのが始まり。以来目についたら買っていて、キャリアが長いので絶版本なども図書館で借りたり。

ふうこにとって鮎川哲也の魅力とは、ひとことで言えば「緻密な論理」です。…というといかにも普通の『本格』好きの鮎川評なのですが、普通と違うのは、ふうこ読んでる途中で自分で推理したり、後から論理性の検証などを楽しむようなことは一切しないということです(!)。それどころか何でこんなに読んでるのにこんなトリックに気づかんかなー(-_- )とへこむこと多々。が、ふうこが推理小説に求めているのは、へんてこな推理を開陳する出しゃばりとか、奇禍に立ち会ったことで感傷に流れる人物、といった「色物性」を極力排除して純粋に「推理の過程」を追うことを楽しめる硬派さなのです。そして鮎川氏の作品は「推理を楽しむ小説」としては当代一です。

もちろん鮎川氏にも脱線描写がないわけではないのですが、それも何だか品がいい。高度経済成長期に活躍した作家だからか、いささか紋切り的な女性評や細君がどうのこうのという愚痴話も出てきますが、読んでいてさもありなんと納得するような、微笑ましいともいえる話が多くて楽しめます。

犯人が自決するタイプの結末が多いあたりがやや難ですが、「本格推理」にどっぷり浸かりたい時は何よりもこれです。推理小説かくあるべしです。