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有栖川有栖『マレー鉄道の謎』

マレー鉄道の謎

ううー今週は忙しかった。日記を更新する暇もなかったわい。とは言え電車の中で読了した新着「読書」は、タイトルが発表されてかれこれ4年くらい待たされた、本格ミステリ作家クラブ初代会長有栖川有栖氏の新作。臨床犯罪学者の火村もの(もしくは作家アリスシリーズ)です。

さて、今回はアリスと火村が大学時代の友人を訪ねてマレーシアへ出かけたところから始まります。最初はのんびりと休暇を楽しむ二人ですが、友人の経営するゲストハウスに着いた辺りから不穏な気配が…そしてついに事件発生!であります。

今回は旅行中の奇禍ということで、最初の「読みどころ」らしいのは蛍の川を観光しながら『悪』の定義について形而上学的な議論を戦わせる二人。…現実にはままあるシチュエーションにせよ、こうやって小説につらつら書くような内容じゃない気もする。議論自体はそれなりに読めたし(結論として読めたというのもあるけど)、観光のシーンそのものはとても素敵だったが、「謎」が進まないのでいらいらしてちょっと読み飛ばし気味(だめじゃん)。

で、おまちかねの事件が起きたところでいくら日本で警察に協力している実績があるからってここは外国だしってことで火村の動向を注目していたら、案外普通に捜査が進んでいく。ではトリックの吟味の過程を楽しむのかと思えば、あとからあとから事件が続発して、そうこうしている間に火村が全体の構造にピンときて終わり。…あれ?

外国語に不慣れなアリスの一人称語りという特徴を使った変なくすぐりやちっちゃいボケはちょこちょこ笑わせてもらったし、そこに推理の決め手を隠すなど、相変わらず論理の組み立て方やそれの見せ方の演出についてはさすがの完成度ですが、結局のところ舞台装置を変えただけで「定石」を外してくるような冒険には乏しい。

クラシカルな本格ミステリが好き、と公言する著者だけあって、昔の本格がもっているいいところも悪いところもまんま包含したという印象の作品でした。