若竹七海『死んでも治らない』
- 2002.04.27 Saturday, 20:17
- [今日の読書]
主人公は、元警察官で作家の大道寺圭。17年勤めた公職を何となく
辞し、幼なじみの編集者の薦めで警察官時代に出会ったまぬけな犯罪者たちについて書いた『死んでも治らない』を上梓したばかり。ところが、現役時代の自分も真っ青なほど次々と事件に巻き込まれ…。季刊誌『ジャーロ』で連載された一話完結の短編集です。
基本的に著者の諸作品はどれもどこかほのぼのとした雰囲気の漂うミステリで、ジャンル的にはコージー・ミステリ
と呼ばれています。もちろん本作もいい感じの謎が満載なのですが、何よりも主人公の大道寺のキャラクターが秀逸です。
「作家」を職業とするメインキャラクターでステレオタイプ的に思い浮かぶのは、善良で感傷的で、ある種想像力のたくましいワトスンタイプ、もしくは世知辛い世間を渡るために卑屈さを身につけた法月綸太郎タイプ、普段は内にこもって世間との没交渉を決め込む安楽椅子探偵、逆にやたら出先で事件に巻き込まれるジャーナリストあたりかと思いますが、大道寺はどれにもあまり当てはまりません。基本的には覇気がなく物事を斜に見ているが、何やかんやと人に振り回される。ぶつくさ言いながら透徹した目で真実を見抜き、何度も死にそうな目にあいながらどことなくしれっとしている。ヘタレのくせに硬派。
そして、そんな大道寺を取り巻く人たちもやっぱりひと癖ふた癖ある者ばかり。当然やりとりは全体的に軽妙になりますが、彼らを襲う現実は思いの外酷薄です。肩の凝らない語り口にすっと忍び込むブラックな気配。誰が呼んだかコージー・ハードボイルド
です。
ぱっと目を引く派手さはないですが、どうやっても他では読めません。『ジャーロ』連載時に全話読んでるのにまた読んでしまいました(一応書き下ろしもあるけど)。久々にアタリ!の一冊です。