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ジョナサン・キャロル『死者の書』

死者の書

この本を見つけたのはクレイグ・ライス『マローン殺し』と同じく、創元推理文庫の『私の一冊』フェアにて。恩田陸氏お勧め本です。読書友達の1人に話したところ確かに(恩田陸が)好きそうだとのことでした。ふうこはその時最初の50ページ程を読んだところで、さもありなんと思いました。主人公が心酔する作家の絶版本を100ドルで買い取ろうとしているシーンで、その時受けた感じがちょうど恩田陸『三月は深き紅の淵を』や『月の裏側』の導入部分を読んだ時と同じだったからです。

で、途中で小野不由美『魔性の子』をやっつけたりしつつ(感想? 聞いて頂く程のものはないです…)やっと読み終わったのですが。

ひとこと、こんな本は初めてです。このお話の中で起こることは常識はずれなことばかりなのに、いつの間にか他人のウェブ日記でも読むような感覚で、普通に読み進めている。にもかかわらず、日常の描写ひとつひとつにいたるまで「既視感」というものがない。自分がいつも感じていることとすごく近く感じるのに、今まで読んだことのある表現に全くあてはまらないのです。世の中こんなに本があるっつーのに。どうなってるんだ。

そして、全編に溢れる「本」への愛情。会話の切り口としての「読書話」に出てくる所謂『キャラ萌え』でも「ミステリ好き」「ホラー好き」という『ジャンル萌え』でも青春ものなら男の子複数人メインが王道よね(^^)的な『シチュエーション萌え』でもなく、「本だからこそ」「『本』が好きなんだ」という感覚。

主人公は有名な映画俳優の息子という設定で、自分の感覚を説明するのに映画を比喩に使うことも多く、特に本が最高!!という描写があるわけでもないんですが、メディアの一種類としてではなく「本」そのものが持つ魔力を信じている人にしか書けないし、理解できないと思える文章なのです。

世の中にはアニメオタクのためのアニメと呼ばれるものがあるけれど、もし本オタクのための本というものがあるとすれば、きっとこの本がそうです。